動 物 編 ミ ニ ド ラ マ

会 場 大雪山国立公園

動 物 編 目 次
三本足のガイド ? ゴンタ
亭主関白
子犬のように
クマゲラの奮闘
お兄ちゃんといっしょ
次世代へのホバリング

おなかにバンビが

ああ無情
知ってる?
生きてます助けてください
遥かなる余録の珍生劇場

 


トムラウシ山のガイド 

ガイド役 三本足の北キツネ  ”ゴンタ ”

 オッハヨォ! あれっおめえきのうの・・・、新得トムラウシ温泉から入山しオプタテへの分岐、南沼で出会ったゴンタ君だ。途上多くのキツネたちと出会ったがこのゴンタの表情はどこか違っていた。
 野生のもつ表情ではなく、なぜか意味ありげだった、左足の足首が豆腐でも切ったようにスッポリとないのだ。
 その左足は、身体を支えるのにバランスをとりながら、つらそうに浮かしている、そのときオレは言った、”三本足だからって物乞いはダメッ!なにもやれんデェ”。
 なんで足首がない、岩場に挟まって取れずに自分で噛み切ったもんか・・・止血はどうした!いかに自己治癒力があるとはいえ完全な切断である、オレはすごく気になっていた。

 一夜明けた北沼にまで来てた、オレは声をかけた ”まさかおめえトムのテッペンさ案内すうわけじゃあんめい”ゴンタ君の表情は反対に ”忘れもんないように、はよういくべェ”と言わんばかりで準備を急かされているようであった。
 頂上までは踏み跡はあるものの、いつも大きな岩ゴロに遮られ苦労する。歩き出すとゴンタも一緒に腰を上げた ”あれッこいつどこさいく、ついてくんか”とオレは言った。ついて来るどころか先へ先へと、それも振り返っては座り込み、近づくと歩き出す。見えなくなったと思うとカーブの岩かげで待っていて見上げられた
 ゴンタの後をついていくと足場を選ぶ必要がなかった、幾度も岩陰で待っていた、退屈であったのか身だしなみをを整えている場面もあった。”おめえ三本足のくせずいーぶ早いんでねーか”とオレはいった、だがおかまいなしに腰を上げ先を行く、おかげですんなりと頂上へ着くことが出来た。とりあえずはゴンタに”ありがとう”といった。
ザックを下ろし汗を拭きながらゴンタに声をかけた、反応を感じない、どこさいった? 誰もが景色にほだされてゴンタの去っていくのに気がつかなかった、見渡したがもはや視界にはなかった。
 三年後ある山好き仲間の話を耳にした。”去年トムラウシで三本足のキツネに頂上まで誘導されたさ”ということを聞かされた。やはり物乞いではない、なんで?、やむなくあの足首切断の際、出血多量で苦しんでいるのを、通りがかった登山者から相当の手当を受け、元気を与えられ恩義を感じたお礼なのか。また元気に回復した己を見せんとて、その登山者の面影を求めて再会を待ち望んでいたものなのか・・・。
 それ等はゴンタ以外誰も知らない、そして案内されたのもどれ程の人達がいたものか、その後幾度かこの山へ行ったが、誘導された北沼から頂上への、あのゴンタ街道を迷わずに歩くことはできなかった。

 15年も前のことであったが、あの表情は脳裏に焼きついている。

1988年8月18日のことだった。
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亭主関白

 大雪山、そこは絢爛と咲き誇る花々の楽園と共に、多くの小鳥たちがリズミカルに美声を競い合う楽園でもある、そんな中でちょっと外れたさえずりに視線を向けた、ハイマツの上でギンザンマシコのつがいが戯れていた。
 メスがハイマツの芽をついばみ、旋回して来るオスに口うつしで与えていた、なんとも愛らしい光景にレンズを向けた。
 小鳥達の世界にも亭主関白があるのかと、ほくそ笑みながらフアインダーを覗いた、微笑ましき限りであった。
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子犬のように

 いつも火山ガスの洗礼を受け、植物は生存が不可能なのか一面火山礫の山頂であった。月面もこうなのだろうか、時折吹き上げてくる硫黄のような異臭を感じながら荒涼とした足元へザックを下ろし汗を拭いていた。
 どこからともなくキツネが一匹視界の中に現れた、無視していたが5〜6メートルになると、こちらの視野に入り込み座ったり腹這いになったりしていた、だんだん近づいて来たその度にこちらも目が合わないように、じらしの意味で身体を回転させ背を向けつづけ完全に無視した。
 絶景に幾度かシャッターを切った、思った”無視されたキツネ野郎行っちゃったか”と突然真後で「キャオーォー」音にもならない静かな音だけが頬をなぞっていたのに、その奇声におどろいた、たまげた、犬があまえて飼い主にまつわりつくようにだ。


 写真の撮り終えるのを待っていたのか、こちらの思った「キツネ野郎!」がテレパシーで伝わったのか、振り向き一瞬2〜3歩さがりざまシャッターを切った、そして視線を同じくするためにしゃがみ込んだ、が逃げようとはしない。言ってやった「おめえまだいたんかこんなそばさいてふんずけられっぺャ」かわいいやつ、偽りも汚れもない瞳だ、抱きしめ耳をかじってやりたかった、手振りの会話でなにも貰えんと感じたか帰りだした。
 どこさ行くんか、いつものように「元気でナー」遠ざかるキツネに声をなげかた、
キツネは身体をまわして振り向いた、大きく手を振ってやった。
 焼き付けの出来た写真はちょっと惜しかった、見定めもせず咄嗟に切ったシャッター、ふくよかなシッポの全体像がほしかった、イヤ見えぬものを想像するのがいいのかもとも思った。先の白いボワッとし、素晴らしいシッポの持ち主であった。
 そしてヤマのよきお友だちでもある。
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クマゲラの奮闘

 新鮮な森林浴を求めて、芽吹きはじめたある郊外に脚を運んでみた。多くの小鳥の声の中で耳を疑った、ドラミングである、それも間近で、やがて鳴き声と共に大きなものが視界を横切って行った。まさかこんなとこで・・・その声はまぎれもなくクマゲラである。鳴き声から相手もいるだろうと判断してその方向へ回ってみた、巣穴をあけられた大木に雌が(雌雄の判別は分からないが)いて小さな声を出しながら木肌を歩き回っていた。

 信じられないが事実である、雄が巣穴を離れて行った、後を追ってみてこれまたオドロキである、いつからやっていたものか、写真のように電柱の穴開け作業に熱中していた。

 この場所はクマゲラの保護の意味からも、巣穴をあけられた樹木の写真も含めて秘めておきたいものである。
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お兄ちゃんといっしょ

 深い沢の落ち込んだ手前に立っていた、対岸?の斜面の高いところで黒いものが動いているように見えた、大きな声を出してからだごと手を振った。
 黒いものが二つに分かれて転がるように深い沢底へと移動して行った。
 やっぱりキツネだ更に大きな声をかけた、そして勝手に決めつけた、これは”兄弟のキツネ”だと。
 沢底へついた兄弟は引き戻されながらも深い雪をかき分け急斜面を登ってきた、相当疲れたらしいふたりの背中から湯気がたって霜のようになっていた。
 立ちんぼうでそのバイタリテイを見ていたこっちも、手の平がしっとりとしていた。
 登り切ったふたりは近づいてきた、とてもめんこかった、オレはおもわずしゃがみ込み言った ”オッハヨォ!”とだけ、とつぜんふたりは写真のようにむきあった 。
 


 オドロイタ、見つめた、なにやら声高らかにわめきながら、でも双方とも噛みつく気配はなかった。
 やがてはげしい口論がおさまった、兄弟の話はついたようだった左が兄のようだった。
弟は5歩も6歩も退いた”お兄ちゃんのウソつき、いつもいっしょだっていってんのにまたきょうだって・・・”
 弟の全身からはそのように聞こえてきた弟は耐えていた、その悔しさが痛いほど伝わってくる、いじらしい、手をさしのべ抱きしめて頬づりをしてやりたかった。
 弟は兄と風太郎交互に目配せをしては助けを求めているようにも見えた、とても可哀想だった。
 退ける弟を見て兄は言った、”またやっちゃった、ごめんヨナ、オレっていつもだもんナ!” 

 弟は不満げに小さく、鼻をヒイヒイならしていた。

 


 本当らしい、兄の目からはそのように弟に対しての罪悪感と、反省の気配がチョッピリと伝わってきた。兄は弟のためにもか、なにかをねだるように風太郎を見上げた。風太郎は言った、”なんもねーよ、あったってやるわけねーだろォ”、兄は首をかしげるような仕草で見上げる。また言った、”なんもねェーさっさとけェれェー” ”けェれェー、けェれ!、こんにゃろー”いいながら雪を蹴上げた二度三度と。
 オドロイタ兄は弟に身体をすりつけ、先駆けて沢へ下りていった。オレは上から何度も声をかけた、”がんばれょー”弟はそのたびに振り返り兄の後を追うが、兄は一度も振り向かなかった。沢を登りきりやがて雪の中へととけ込んでしまった。
 風太郎に接する先陣争いであったのか、兄としてのリーダシップとしての行為であったのか・・・・。

なにかをおしえられたようであった、なんだろう・・・・。
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次世代へのホバリング

大きなトンボが音もなくホバリング、大きな波紋を描き懸命の産卵作業?、次世代への子孫承継へと義務を果たす。オオルリボシヤンマ

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おなかにバンビが

 アーチ橋探索と撮影のため初めてのカンジキを、試行錯誤でつけようとしていた。なにか視線を感じて顔を上げた、5〜6頭の鹿が見ていた、なんとかカンジキをしばりつけ歩き出した。3月の積雪は表面は固く見えても底からくさっていた、カンジキをつけていても力の加減で大きな穴となり埋まった。
 鹿達は近づいても心配して見守っているようだった「オッハヨォ」声をかけたら一斉に逃げ出した。「オ ーイそりゃねーだろー」、なぜか、一頭が戻ってきた、埋まりながらうごめく風太郎に興味があったようだ、 近づいて見た「オイッボッケじゃんか」いいながらカメラを向 けた、逃げようとしない、こちらのヒゲが白いのでお父さんと勘違いしたのか?、 また言った「予定日はいつだィ?オイッ」乱暴な言い回しが気にさわったらし、そのお母さん鹿はクルリッと向きを変え、やっと仲間の方へむかってった。
 7月に入って、その地域で目にした鹿の群、そんな中にちいちゃなやつも負けじと四つ足を一杯に伸ばし、笹の上を滑空するように移動していた。

 まぎれもなく可愛いいバンビだった ウン そう もしかして・・・・。
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あ あ 無 情

 8月下旬の早朝、走り慣れた国道273号線で見た子鹿の衝突事故である。予想どおりに左後部をやられていた。   まさか前項のおなかのバンビでなければ・・・・
 過去に幾度か目撃した鹿の車との衝突事故はすべて半人前の子鹿である、そして申し合わせたかのように、左後部に限られている。 鹿が広い道路を渡ろうとするとき数頭の群れで渡る(単独では見たことがない)その前にリーダは右から来る車に注意、やり過ごしてから道路へ出てくる。車から見た場合、左から渡ろうとしている鹿達はこちらを向いているが、右から渡ろうとしている鹿は向こうを向いていて、向こうからの車(対向車)が通り過ぎると道路に飛び出す。反対からの車に気づき先頭は急ぎ、最後部の鹿は戻るが、数頭の中ほどに位置づけされている未熟な子鹿はリーダの後を追う。その時には車も避けようとして左に寄せ、逃げ切れない子鹿は路側帯で衝突となる。  今回の事故も左足骨折、尻の左側をやられていた。
  このような道路標識のある道路では右側の鹿に要注意である、特に対向車の過ぎた後からの飛び出しは危険そのものである。
 対向車と交叉する前に、右側の路側に鹿の存在を確認して対応してもらいたいものである。車がダメージを受けても携帯電話は圏外です、念のため。
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知ってる?んですか

 残雪の陽だまりで鹿たちがたむろしていた、車を止めると逃げ出した。窓を開けて声を掛けた、「オハヨッ元気!」逃げ足を止めて振り返る、再度「ヤァオッハヨ!」。仲間と思ってんのか2-3歩近づいてくる、なにやら語りかけているようだ、なぜか懐かしさを感じる、カメラを向けたが離れようともせず、どうしようかと相談しているかのようにも感じられた。そして「だれだアイツ」とささやきが耳をなぞっていったようであった。撮り終えて「ありがとう元気でな」小さく手首を振りながら車を発車させた。バックミラーに眼をやった。路上に半身乗り出し、物珍しそうに多くの鹿たちが見送っているのが映っていた。

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生きてます、助けてください

 釘で打ち止められた表示板、そこには「樹木を愛しましょう」と書かれていた。表示板に雨水の浸入を防ぐ庇?なのか、この表示板を誰にも渡さんとして、両腕で抱え込んでいるかのようにも見えるが?。いずれにしても大雪山国立公園の中、すべてのものの持ち出し禁止区域内で、見出したひと駒をカメラで持ち帰ったものである。

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遥かなる余録の珍生劇場

 B. オイ早く歩けってょ A. そんなに急いでどこさ行っか B. もたついてっと後ろから熊に喰われるぞ A. 賞味期限満了だで避けてくべさ B. 賞味期限切れたら次は発酵だ、いい匂いでなおさらあぶねーぞ A. 発酵?そんなことぁとーに終ったさ、今は腐敗の入り口だ見向きもしねーって B. そーかそんじゃもう少しでオレみてーにムキムキになんだな  A. そーゆうこった、これからぁ身ぐるみ軽くなるって、目的なしの本能だけだ、のんびり行くべーよ B. そうか医者を嫌って70余年も歩き続けたもんな、ここさ来て急ぐことねーか、もうすぐ峠も見えっと A. 峠になにあんだや B. ハーテなんだべ、峠があっことだけは間違いねーな、前さ見えるもんな A. あっこまでなんぼかかんだや  B. いきゃわかっぺ、途中深い谷があっかもしんねーな少し休むべか A. 休むこたーねーさ休むとろくたことねー、おらぁの行く道だ人様に迷惑かかんねーよーゆっくし行くべーって B. そうだなぁのんびり何かを見っけながら風太郎みてーに行っかぁ、あっこまではまだ30年はかかっとよ A. ええってことよ峠とゆう目的のためだべ時間なんか問題じゃねーって B. そーゆうこったな、歩けっことさ感謝しいし行くべーか、だがあんまり離れんなや A. そんだべやそーゆうこったで、おらーだってとしだ、だてに年とってねーんだ、あんまり早く行くなって、元気に感謝感謝どっこらよっと 

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A. 高齢の風太郎

B. 自称元気な無名の老人

B. それはそうと峠から先は下りばかりで大変だべ、登りも少しはあっか A. ええってことよ、時代が時代だパラグライダーで鳥になるさ B. オレはどーすんだょ A. 一緒にとぶさ、先のこたぁ心配しんなぁ B. 重過ぎてドスン地獄行きだべや A. それとも軽くて上へ上へと天国かもよ、いずれにしても先のことは分んねぇ、ケッセラセラってな